異分野研究者座談会

表 竜二
軽量システムデザイン研究室
※2017年1月まで高分子成形・
力学研究室所属

工学研究科 
生産システム工学専攻

成田 麻美子

高分子成形・力学研究室
工学系研究科 材料系専攻

佐藤 範和

高分子成形・力学研究室
工学研究科 機械工学専攻

トヨタグループの先端研究を担う豊田中央研究所では、より快適で燃費の良い自動車づくりをめざして、
新規材料の開発に取り組んでいます。高分子成形・力学研究室では、
専門の全く異なる3つのチームが集結し、複合材料成形技術の構築をめざしています。

熱流体・材料設計・強度設計の
3分野融合で新材料に挑む。

専門分野の異なる研究者が、どのように連携して研究を進めているんですか。

高分子成形・力学研究室は現在、「熱流体」「材料設計」「強度設計」の3チームで構成されています。2015年の発足当初は、さらに「強度評価」チームを加えた4チーム20名の大所帯でした。私たちの研究対象である長繊維複合材料は、その軽くて強い特性から、より燃費の良い自動車の材料として期待されています。その成形プロセスと強度発現メカニズムの解明を通して、より高い成形性と強度特性の実現をめざしています。
佐藤
成形プロセスの解析を担当する私たち熱流体チームでは、熱や流体の応用解析で培ってきたシミュレーション技術をもとに、繊維が混在した樹脂の流動を高精度に予測する技術を開発しています。この研究の難しさは、現象の複雑さにあります。固体・液体・気体の三相の現象が複雑に関係し、それぞれが取り扱われる時間・空間スケールも異なるからです。そのため、実験による検証も欠かせません。
スケールの違いに関しては、私たち異分野間でも扱うスケールが少しずつ異なるんですよね。取り扱うモノのスケールが変わると時間のスケールも変わってくる。成形途中の樹脂は、ある箇所では固まっている半熟玉子みたいな状態だから、佐藤さんの取り扱われている研究テーマは本当に難しい。
成田
あるいは、中がトロトロのフォンダンショコラですよね(笑)。私が所属するチームでは、とろとろの樹脂が冷えて固まる過程で、実際に何が起きているかをリアルタイムに計測するために、放射光施設「SPring-8」に、樹脂の流動・固化現象を0.05秒単位で追跡できる独自の装置を製作して、観察と解析をしています。成形したものの良否を正確に診断するために、樹脂の流動・固化のメカニズムと成形品の特性との関連性を解明することが目標です。
佐藤さんのチームのパートは、複合材料が流れながら固まっていく過程のシミュレーションで、成田さんのチームのパートは、実際に複合材料が固まっていく経過を、時間を追って精細に観察されているんですよね。私のパートは、そうして固まった複合材料の強度シミュレーションになります。部品に力が加わった時に生じるさまざまな現象をモデリングするために、アルゴリズムづくりと実験を並行しておこない、理論の検証をおこなっています。
成田
表さんのチームは、計算による仮説を証明するために、とても緻密な実験を組み立てておられますね。私たちの実験の方がずっと、ざっくりとしているように見えます。表さんや佐藤さんは、数式で表現することを得意にされていますね。私は化学式を思い浮かべながらモノづくりを進めています。同じ方向をめざしていても、それぞれ異なる視点を通して理解しているという違いがありますね。
研究が違えば、それぞれがめざすゴールも異なってきます。そのすり合わせに困難を感じることもありますが、共通の作業を通じて現物を触ったり、一緒に経験したりすることで、研究室としてゴールのイメージを共有していこうと試みていますよね。一人ひとりの考え方の幅が広がりますし、何より優れたチームワークの醸成につながります。

実験や検証の過程を共有すれば、
専門外の考え方や苦労が見えてくる。

それぞれが異分野の考えや立場を理解しようと努力されているんですね。

成田さんたちのチームによる放射光施設での実験には、私たちのチームもサポートとして参加させていただきました。24時間シフトで施設を2日間借り切って進める実験の現場を知り、世界最先端の観察を目の当たりにすることができました。夜中の担当者の苦労もわかりましたよ(笑)。分野に捉われずに、このような体験を通じてお互いの研究内容や苦労するポイントを学んでいく試みは大切ですね。
佐藤
そもそも私は、高分子材料に関する知識がとぼしく、今でも専門家には当たり前の単語すら知らないことがあります。また、樹脂を成形する過程では、樹脂の流動や伝熱だけでなく、溶融や固化など、これまでに扱っていなかった現象やそのシミュレーションに関する知識も必要です。自分の知識や専門性がいかに狭かったかを痛感しています。

成田
確かに、研究室に配属された当初は表さんや佐藤さんのチームの方々が話される専門用語がまったくわからなくて、コラボレーションしているという実感があまり湧かなかったほどです(笑)。そのため、当面は異分野間のすり合わせはリーダーにお任せするつもりで、目の前のことに懸命に取り組んできました。2年経っても、それらの専門用語が理解できるようになったとは言えませんが、自分が取り組んでいる研究の役割はわかってきたと感じています。
佐藤
独学で理解が及ばない時は、成田さんからわかりやすく説明していただいており、とても助かっています。他のチームの方が、「実験をちょっと見に来ませんか」と声をかけてくれる機会も多く、研究室のフランクな雰囲気は自分の知識の幅を広げることに大変役立っています。

同じ研究室なら、ちょっとしたことでも、すぐ尋ねてみようという気になりますね。毎日、顔を合わせている人には質問しやすいと思います。それとは別に、お互いの研究の理解という点では、チームごとの成果を発表する報告会があります。異分野の研究者でも理解しやすいように解説した資料を用いて説明し、ディスカッションにつなげています。
佐藤
報告会の資料は、専門が異なる方たちとのつながりを考えて作成します。すると、自分の研究が全体のどの部分を担っているかを改めて考えることになるんです。特に若い研究者にとっては、研究の理解につながる良い機会ですよね。
報告会を通じて、成田さんたちのチームを「すごい!」と思ったことがあります。ディスカッション中に、分子の化学式を頭の中で想像して動かしておられるんですよね。ベンゼン環などがどんな風に動き、お互いがどのようにくっついたり離れたり変形したりしているのかがイメージできている。本当に驚きました。私たちがいくら本を読んだところで、到底そんなことはできません(笑)。
成田
私が驚いたのは、スケールについての捉え方です。私たちは、複合材料の中の繊維を観察する必要性が生じたら、小さなカメラで見ることを想像します。でも、機械工学系の方たちは、肉眼で見えるほど大きなスケールで再現してみようと考えるんですね。「その発想はなかった! 」と驚きました。小さいものは小さいまま見るものだという固定概念を覆されました。

お互いへのリスペクトと信頼が、
一つの目標へ向かうチカラになる。

異分野融合における研究で、気をつけていること、気がついたことはありますか。

佐藤さんのチームとは、微分方程式の離散化過程以外は、共通点が多くあります。そこで、私たちが必要とするアルゴリズムを先行して開発されているかもしれないと、普段から確認するようにしています。自分たちの研究にも応用できるかもしれませんから。これをさらに一歩進めて、お互いに補完し合って「まずはここまで行こう」と一緒に研究できたら理想ですね。
佐藤
私たちは一人で何でもできるわけではありませんから、やはり自分の専門分野がメインで、足らない部分はお互いが補完し合うことになります。そのためには、一人一人が高い専門性を保つ必要があります。私は、社内・社外のつながりを活用して、自ら動いて情報収集するよう心がけています。また、メンバ間の密なコミュニケーションも重要です。表さんは研究室で様々なイベントを企画して下さり、お陰で研究室内のコミュニケーションが活性化しています。
 

成田
仕事以外の雑談もしやすい雰囲気の研究室なので、毎日がとても過ごしやすいです。異分野の方たちと接することで、どんどん知りたいことが増えていきますが、一方で専門外のことに関して私にできることは限られていると気づくこともできました。自分の基礎となる専門性をしっかりと保ち、私の得意分野で研究室の目標に貢献していきたいと思います。

 

今後の展開については、どのように考えていますか。

成田
この研究を製品につなげていくことが私たち共通の目標ですが、研究室で扱うのは基礎的な研究であり、実物に応用する際には、数キログラムや数百キログラムの単位で誰がつくっても同じ信頼性を担保できていなければなりません。実際に使ってみた時、どのようなことが起きるのかをまだ検証していないので、今後は安全性や信頼性も盛り込んだ材料設計にも挑戦していきたいと思います。
佐藤
現在私たちが取り組んでいるシミュレーションの研究は技術的にとても難しいですが、その分、完成すれば、他のさまざまな材料プロセスに応用できる技術になり得ると考えています。まずは、長繊維複合材料の実用化にしっかりと貢献した上で、この技術をベースとして新たなプロセスに適用していければと考えています。
皆で、この研究を産業のデファクトに持っていきましょう。

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