研究者として、
世の中に役立つ解決策や
具体的な手法を提供したい。

企業で研究を続けることに興味をもったのは、学生時代に目にしたニュースがひとつのきっかけです。量販店の駐車場から噴き出した消火剤が辺り一面に広がる事故があり、泡を回収する効果的な方法が見つからずに多くの人が手作業で汲み出していました。
当時、表面張力を専門に研究していた私は、この事態の解決策を提供できる力量が自分にないことに、もどかしい思いをしました。いつか、このような社会の問題に、理論的な背景と経験を持って、「使える技術」を打ち出せる研究者になりたい。その時の思いが、今も研究に向かうモチベーションになっています。
社会のニーズやトヨタグループへの貢献が求められる当研究所での研究には、成果を世の中のために役立てられるという喜びがあります。もちろん、プレッシャーもありますが、自分の興味だけをやりがいにするのではなく、解決すべき問題に取り組んでいるという実感を得ることができます。
現在の研究は、学生時代の専門とは異なりますが、理論的検討とモデル実験による検証を必要とする点では当時と変わりません。本質を捉えたモデル実験により、効率的かつ効果的に理論を技術につなげられるようになることが、今後の目標です。

理学的な視点と工学的な視点、
違いはあるけれど、
そこが面白い。

現在、私が所属する研究室で取り組んでいるテーマは、より低コストで高性能な繊維強化樹脂を効率よく成形するための技術構築です。現在使われている金属などに替わって繊維強化樹脂を利用できれば、自動車の軽量化によって燃費が向上し、CO2削減につなげられると考えています。まだ基礎的な理論をモデル実験によって検証している段階ですが、製品化をめざして、研究を重ねています。
研究室では、さまざまな分野の専門家と協力しながら実験・検証を進め、ディスカッションを通じて戦略的な決定につなげています。当初は、専門が異なる研究者との共同作業にとまどうこともありました。私は理学を専門としていたため、統一的な理論で現象を理解したいと考える傾向があります。一方、工学的な視点だと、現象の個性を磨き、新たな選択肢を創出していくという違いがあるように思います。異分野の違う視点を持ち寄ることで、より柔軟な解決策を提示できて新たな解決への糸口が見えてくることもあり、異分野同士がいっしょに研究を進める意義を日々実感しています。
一方で、世の中の現象の根本的な原因は物理現象ですので、一見異なる課題も大元は同じだと気づくこともあります。新たな解を探索し、広げていく視点と、一つの理解に集約していく視点、いずれも技術を形にしていくためには重要であり,そのバランスを捉えながら研究を進めていくことに面白さを感じています。

自発的な研究テーマをモノづくりに導くためのプロセスを重ねていく。

現在取り組んでいる繊維強化樹脂の研究は、豊田中央研究所で掲げた自発的なテーマです。グループ会社から依頼を受けて進める受託研究とは立場が少し異なりますが、社会のニーズを意識していることに変わりはありません。
研究の成果をグループ企業に対して発表する場も設けられており、その機会を通じて受託研究やグループ各社への技術移管・移転につながるケースもあります。私の場合は、現段階では発表できる段階に至っていないため、当面は具体的な成果につなげることをめざしています。成果自体は、まず特許申請を経て次にトヨタグループと共同で技術として成熟させてから、論文やプレスリリースという形で世に示します。
当研究所では、グループ企業の技術者と直接お会いする機会に恵まれており、求められている技術やテーマに関する情報を得られやすい環境だと思います。
一方で、研究者としての経験を積んだ上で、平和な社会の実現に貢献できるような研究テーマを見つけて取り組んでみたいという個人的な抱負もあります。技術は時に勝敗を決める道具に利用されてしまうことがありますが、そういった技術の悪用にも負けないような、本気で人を守れるモノをつくりたいと思っています。

ある日のスケジュール

社内での楽しみの一つは、月に数回、社内で開催される講演会を聴講すること。大学の教授など、さまざまな専門家の話を業務時間内に聴くことができ、効率的に情報収集できる。これまでには、ノーベル賞受賞者を招いた講演イベントが開催されたこともある。また社内にも人材は豊富なため、同部署の方はもとより、別部署の方や同期と議論や雑談をする時間も、なるべく取るようにしている。

※記事の内容は取材当時のものです。

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