自動運転車が
一般道を試験走行する
環境に身を置いて。

2007年の入社当時は、当研究所でも走行安全システムを追求していた時代であり、私もそれに関連した比較的出口の明確な研究に取り組んでいました。最近では出口が決まったテーマだけでなく、さらにその先をつくることに挑戦しています。例えば、社会システムの研究では、集合知を活用した意思決定支援システムの研究開発に携わり、モビリティの研究では、北米にあるトヨタ自動車の研究拠点、TRINAにて自動運転の研究に取り組みました。
TRINAでは、自動運転車が一般車に交じって現地の高速道路を試験走行する実験が、毎日ごく当たり前に続けられていました。日常的に研究成果を肌で感じ、次の課題を把握し、社会から向けられる視線を受け止める状況を経験することができました。
自動運転といっても、さまざまな段階があります。私が取り組んだのは、混雑した高速道路へ合流する際に、周りのクルマの様子を見ながら適切な合流場所や速度を決定する機能の開発です。人なら普通にできる間合いをつかむような判断を、データから学習する方法の開発に取り組みました。帰国後も引き続き、刻々と変化する状況下で意思決定できる機械学習のアルゴリズムを研究しています。

大学時代から変わらぬ
機械学習への思いを
自動運転化へ注ぐ。

ロボットは、すでに私たちの生活のさまざまなシーンで利用されています。たとえば、工場内では、ロボットが随分前から活躍しています。ただし、それらは整備された環境で決められたタスクだけをこなすロボット。それに対して、私が大学時代に研究していたのは、サッカーのように複雑な環境下で自律的に行動を学習できるロボットです。
サッカーのプレイ中における環境は、異なるプレイヤーが参戦してきたり、コートの芝が新しく整備されていたりと、試合毎に変化します。そのような環境で多彩なタスクをこなすためには学習機能が不可欠です。より優れた学習機能を備えたロボットは、実社会のどこで最初に製品化されることになるだろうか。そう考えた時に思いついたのが自動運転です。豊田中央研究所でなら、大学での研究を生かせるのではないかと思い、入社しました。
入社後は、まず飲酒検知アルゴリズムの研究開発に2年、その後、車両挙動に基づく居眠り運転検出法の研究開発に2年携わりました。大学時代からの研究テーマを応用して、社会やグループ企業のニーズから導き出されたテーマに、私なりの答えを出してきました。

基礎と応用の両方を追求できる
豊田中央研究所の研究環境。

アメリカはベンチャーが盛んな国であり、大学教員が学会で発表した技術で起業し、翌年には製品化されることも珍しくありません。日々、成果がスピーディーにモノとなって発信されていくアメリカで過ごした経験は、研究成果をどのように世の中に還元するかの意識を大きく変えました。
あらためて豊田中央研究所を見てみると、製品に近いフェーズの研究もあれば、アカデミックインパクトを志すフェーズの研究もあります。そういったことから、いずれのフェーズの研究もできる環境と言えるでしょう。自分が両方やりたいと望めばチャンスは与えられるし、アカデミックに追求したければ、それも可能です。
現在の自動運転は、取得できる情報や規模、失敗の可不可などの設定が少し異なるだけで適切な判断を学習するのが困難になる状況にあり、製品レベルの意思決定を学習するアルゴリズムの確立には至っていません。さまざまな分野の研究者が在籍し、多分野から視点の異なる意見を得られる当研究所ならではの環境を生かし、次の一手を探っていきたいと思います。

ある日のスケジュール

朝は2歳半の子どもを保育園へ送っていってから出社。勤務のコアタイムは10時からで各々出社時間が異なるため、打ち合わせは自然に午後からとなる。17時からの論文読み会は、分野を問わず研究者同士で新しい論文や技術を紹介し合う会。異分野の視点に触れる絶好の機会だ。

※記事の内容は取材当時のものです。

pagetop